第135話

「本当に申し訳ありません、皆原さん。ありがとう」



木嶋さんはふうっと息を吐いたあと、いつものあの優しい笑みに戻った。




「・・・・いえ」




私はふるふると小さく首を振った。




「帰りはゆっくりと、気をつけて戻ってくださいね」






ーーーどうしよう。




このままじゃ木嶋さんが、





「それじゃ、僕はこれで」





行ってしまうーーー・・・・





そう思った瞬間、私の腕は自然と前に伸びて、






「みな、はらさん・・・・?」





木嶋さんの片腕を、両手でしっかりと握っていた。





離れていかないように。



なんとか此処に引き止めておきたくて。




そして。






「好き、です」






ずっとずっと言えなかった。





一度は忘れたはずだったのに。



だけどやっぱりまた、好きなってしまった。




好きで好きで好きで、どうしようもないくらいに好きになってしまっていた。



いつかこの恋を再び忘れる日が来るのかもしれないけれど。



それでも私の人生で間違いなく、好きだという気持ちが1番大きな恋だと思うから。





溢れ出るその想いのすべてを、







「木嶋さんのことが、好きなんです・・・・!」








初めてぶつけたーーーー・・・・

























木嶋さんの表情は見れなかったけれど。



代わりに、幾つかのくすくすと小さな笑い声が耳に届いた。





その直後だった。




木嶋さんは私が掴んでいないもう片方の手で、少し強引に木嶋さんの胸へと抱き寄せられた。





「・・・・っ」





それからそのまま抱え込むような体勢で、足早に路地裏へと進んでいった。




それらはすべて人通りの多い、大通りのど真ん中での出来事だったから。



今さらながら、私たちはかなりの注目を浴びてしまっていたのだろう。




木嶋さんはこの状況から、私を庇うように身を隠してくれたのだ。




その冷静さが今は少し、切なかった。

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