第133話

再びお盆を抱えて上階へと向かった。



もちろん片付けも私の仕事なのだけど、いつも自分の作業の空いたタイミングで片付けに行っていたから、こんなふうに社長に呼ばれて行くのは初めてだった。



もしかしたらこの後にまた、お客様が来る予定でも入ったのかもしれない。










「呼び出してすまなかったね」



「いえ・・・・」





社長室に入ると、当然ながらそこにはもう木嶋さんの姿はなかった。



しっかりと飲み干してある湯呑みを見て、いつもなら嬉しく思うのに、今日は胸がきゅっと痛んだ。



それをお盆に載せようとしていると、





「ああ、片付けは後でいいから」



「え?」






だってこの為に呼び出したんじゃないの?





「それよりこれを頼まれてくれないかな」




見ると社長がデスクの上で、A4サイズの茶封筒に書類のようなものを数枚入れているところだった。




「木嶋くんに渡し忘れてしまったものがあってね。少し前に出たところだから、今から駅の方に向かえばまだ間に合うと思うんだ」




え・・・・・・・・




「すまないが急いで追いかけて渡してくれないかい?」




社長は封をし終えたばかりのそれを、私の目の前に差し出した。





「わっ、私がですか・・・・?」





もう会うことはないと、今さっき思ったばかりなのに。



また木嶋さんに、会えるの?






「正直に言えば、来月から来る新しい人に渡してもかまわないものではある。けれどね、」




そこで一旦言葉を切った社長を見上げる。





「渡せるときに渡しておきたいんだ。人生は何事もタイミングだと思うんだよ。それを逃して後悔するのは嫌だからね」







“後悔”ーーー・・・・




私は過去に、何度しただろう。




仕方がないと言い訳しながらも、心のどこかで想いを伝えることすらしなかった自分に。




自分自身に、何度も悔やんだ。







ーーーまた同じことを繰り返すの?











そんなのは、もう嫌だ・・・・!











「私、追いかけます」





そう言って差し出された茶封筒の両端をしっかりと握ると、社長は満足気に笑った。

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