第131話
「皆原さん」
社長が渋い声で私を呼んだ。
私ははっと、慌てて口もとを押さえた。
「すみません、私・・・・!」
なんてことを口にしてしまったのだろう。
こんなこと言ったら木嶋さんをただ困らせてしまうだけだというのに。
「いや、気持ちはわかるよ。僕だって木嶋くんにこうして会えなくなるのは寂しいからね」
優しい社長はフォローするかのように同様の言葉を加えてくれた。
木嶋さんも気を遣ってか、
「皆原さんにまでそう言ってもらえるなんて光栄ですよ」
と言ってくれた。
「本当にすみません。ですが困ったことがあれば携帯に直接お電話くだされば、いつでもご相談には乗りますから」
「ありがとう。あとまた飲みにも付き合ってくれるかい?」
「はい、それはもちろん喜んで」
「ああそうだ、その時にはぜひ皆原さんもお誘いするよ。そうしたら皆原さんも木嶋くんにまた会えるだろう?」
そう言って社長は私に笑顔を向けた。
「いえ、私は・・・・・・」
私は、そうまでして今後も木嶋さんに会うことを望むのだろうか?
頻度は少なくとも、定期的に会えていた今までとは違う。
社長の社交辞令のような口約束を必死に待ち望んで、これからの毎日を過ごすのかな。
そうしてもしもまた会えたとしても、その時がきっと今度こそ最後だ。
会えなくなるのが早いか遅いかだけであって、その先に続く未来はないのだ。望めば望むほどただ苦しさが増していくだけなんだ。
それならばーーーー・・・・
「私は、大丈夫ですから。その時はどうぞ2人で楽しんでください」
ここできっぱりと終わらせるべきだ。
今日が最後ではなく、木嶋さんは今月末にあともう一度だけ来社する予定だった。
往生際の悪い私は、その日が永遠に来なければいいのにと思った。
けれど時間が止まるなんてことは、当たり前だけど起こるはずもなく。
あっという間にその日はやってきてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます