第130話

彼女、いないんだ。




だけどだからと言って、私なんかがどうすることもできなければ、どうかするつもりもないのだけれど。



それでも自然と緩んでしまう頰と、こっそり胸もとで握りしめてしまう拳。





そっか。



木嶋さん、彼女いないんだ・・・・・・・












それからの私は、木嶋さんが訪れる日を心待ちにするようになった。



仕事もより一層精を出すようになり、職場とアパートの往復の毎日だったけれど、それでも私の心は充実していた。



もちろん木嶋さんに会えたとしても、ほとんどが軽い挨拶程度のみ。会話らしい会話なんてほとんどなかった。



だけどそれでも一目その姿を見られるだけで、それだけですごく嬉しかった。



自分の気持ちについては、あまり深く考えないようにしていた。




本当に多くは望んでいなくて。



ただ今が幸せならそれだけでいいと思ってた。









ーーーーそれなのに。













「え?担当が・・・・?」




木嶋さんに再会してから、半年が過ぎた頃だった。




「そうなんだよ。木嶋くんは今月いっぱいで、来月から別の人がうちの担当になるそうなんだよ」



「事務所の意向で本当に申し訳ありません」




いつものようにお茶を持って訪れた社長室で、突然そんなことを告げられた。



なんでも優秀で売れっ子な木嶋さんは、大手企業を中心に担当することになったらしい。





「そう、なんですか・・・・」





担当が、木嶋さんではなくなってしまう。





「それは、もうここには来られないってことですか・・・・?」





木嶋さんが来なければ、私は木嶋さんにただ会うことさえも叶わなくなってしまう。



ささやかな幸せが消えてしまう。




せっかくまた会えたのに。




今度こそもう2度と会えなくなってしまうの?

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