第126話
どうやら私が食い入るようにじっと彼を見つめてしまっていたらしく。
「皆原さんは木嶋くんのあまりのかっこよさに見惚れてしまったようだね。彼、まるで俳優さんみたいだろう?」
社長の言葉に、鏡を見なくてもわかるほどに顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。
私は慌てて社長の前にも湯呑みを置いた。
「これ、名刺です」
すると木嶋さんは私の任務を終えるのを待っていたようで、両手で名刺を差し出した。
「っ、すみません、ありがとうございます」
私は小脇にお盆を抱えると、同じく両手でそれを受け取った。
そのままぺこりと頭を下げ、木嶋さんの顔を見ないように「失礼します」と逃げるように社長室を後にした。
しっかりと閉じられた扉に寄りかかり、はあっと大きく息を吐いた。
中からは社長の笑い声が聞こえてきた。
受け取ったばかりの名刺に視線を落とすとそこには、
“櫻井会計事務所
公認会計士 木嶋 希和”
と、書かれていた。
・・・・希和。
その文字をそっと指でなぞる。
整いすぎるほど綺麗な顔に、男性にしては少し珍しい名前も同じ。
ーーーやっぱり、間違いない。
会計士の木嶋さんは、あの穂高先輩なんだ。
きっと何か事情があって苗字が変わってしまったのだろう。
「会計士、してたんだ・・・・」
まさかこんなところで再会するなんて。
胸の高鳴りは治るどころか更に激しさを増していく。
いやいやいや、ちょっと待って。
だって先輩の高校卒業と同時に会えなくなってから、何年経ったっていうの?
もう7年以上にはなる。
・・・・そうだよ。もうそんなにも経つんだ。
今さら再会したところでなんだと言うのだ。第一先輩は私のことなんて覚えてないどころか、まったく知らないのだから。
何かがまた始まるなんて有り得ない。
私はお盆を胸にしっかりと抱え、ふるふると頭を振った。
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