第124話
同じ日本人で同じ日本語を話しているはずが、まったく会話が通じていない。
「あの、仰ってる意味がさっぱりわからないのですが」
「うん、だろうね」
「・・・・・・・・」
どうやら細く説明をする気はないようで、
「まぁとにかく伝えたから。とりあえず美味しいお茶でも淹れてやりなよ」
門倉さんは手をひらひら振りながら、勝手に人を混乱させるだけさせて自分のデスクへと戻っていってしまった。
本当、わけがわからないんですけど。
首を傾げながらも、普段からちょっと変わった門倉さんの言うことだ。あまり気にしないことにした。
もうすぐ15時になろうかという時間に私は給湯室に向かい、如何にも高価そうなゴールドの茶筒を手に取った。
美味しいお茶を淹れてあげなよって、このお客様用の茶葉を使えば良いだけだよね?
棚に手を伸ばし、これまた高級そうな湯呑みを2つ取り出した。
こうして社長室にお茶を運ぶのは、入社してから今日で3度目になる。
それでも今だに慣れなくて緊張する。
社長はとても優しい人だ。
私の会社を辞めた理由が色恋で傷ついたからという、社会人にあるまじき行為であるというのに、面接で私の話を聞き終えた社長は、
『・・・・それは大変でしたね。信頼していた人間に裏切られるというのは非常に辛いことですからね』
そう言って目尻を下げた。
『この会社の社員にはそういった人間はいないと私は信じています。ですから皆原さんにもきっと安心して働いていただけると思いますよ』
絶対に落ちたと思っていたのに。
その日の夕方すぐに採用の連絡が届いた。
そんな社長の期待に応える為にも、早く仕事を覚えてこの会社に長く勤めたいと思った。
社長室の扉の前に立つと、室内から笑い声の混じった話し声が聞こえた。
もう会計士さんが来てるんだ。
私はふうっと1度息を吐いてから、トントンっと扉をノックをした。
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