第123話
◇◇◇
それは入社して、3週間ほど経った頃だった。
「皆原さん」
頼まれた通りにひたすら資料をコピーしていると、営業の門倉さんに声をかけられた。
門倉さんは入社前、あの喫茶店に社長と一緒にいた男性社員だ。
「今日15時に会計士が来ることになったからお茶出しよろしくって、課長から伝言」
「あっはい、15時ですね」
そう返事をしながら課長の席に目を向けたが、課長の姿は見当たらなかった。
「課長ならさっき三上と出てったよ。それより皆原さんってさ、」
門倉さんに再び視線を戻すと。
「彼氏いるの?」
「へ?」
「だから彼氏」
カシャン、カシャン、とコピー機の音だけが暫し響く。
なぜそんなことを聞くのだろう?
しかも思いっきり仕事中の、今。
けれどさっさと答えろといわんばかりの、鋭い双眼が私を射抜く。
「・・・・・・・いませんけど」
当分恋愛はする気になれなかった。
というかできる自信もない。
今はそんなことよりここでの仕事を完璧にマスターして、ちゃんと居場所を作りたかった。
彼氏の有無なんて別に隠すことでもないから正直に答えたのに、門倉さんは。
「ふーん」
と、素っ気ない。
ふーん、って。自分から聞いたくせにその薄い反応はどうかと思う。
門倉さんは見た目も話し方もチャラいけれど、確か年齢は32歳で、奥さんと子供もいるらしい。
全然見えない。
「あの、なにか?」
「いや別に。たださ、なんか危ういかもなって思ってさ」
危うい?
「なにがです?」
「落ちそうで落ちない。けど落ちるとなると、大怪我も顧みないほど一気に急降下しそうだよね。そんな危うさがある」
「はい?」
「だから、会計士だよ。俺ってけっこう勘が当たるんだよね」
会計士?勘?
・・・・この人一体なんの話をしているんだろう。
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