第122話

「けど面接って言っても形だけでしょう。うちの社長テキトーだから、どうせ雇うつもりだったはずよ」



「いえ、そんなことは・・・・ないと思います。けっこういろいろ聞かれましたし、正直ダメかなって思ってました」



「へえ。いろいろって?」





私がコーヒーを入れるのを、腕を組んで壁に寄りかかって見ている三上さん。



その姿は威圧的で、ちょっと恐い。




「その、前の会社を辞めた理由とか。マニュアル的な理由ではなく、本当のことをすべて話してくれなければ雇えないと言われました」




知名度もあるそこそこの大手を、たった1年ちょっとで辞めてしまったのだ。不審に思う方が当然だろう。


けれど私は本当の理由なんて言えないから、もっと違う環境でいろんな経験をしてみたくなったと述べた。



もちろんそれで納得してもらえることはなく、




『あの場で突然声をかけてきた状況からして、特に志望理由なんてないことはわかっているんです。貴方はうちが一体なんの会社でどれくらいの規模かも分からず声をかけてきたのですから。ですがとりあえず就職したいという熱意だけは十分伝わってきたので、それに関しては何も言うことはありません。



ですが、以前勤めていた会社の退職理由は真実が知りたいですね。その理由によってはこちらが予め事前に対処が必要な場合もあるかもしれませんし、貴方に心構えが必要かもしれない。



話してもらえなければ、当然雇うことはできません』




社長にはそうはっきりと告げられたのだ。



一見厳しい言い方にも聞こえるが、そこまではっきりと突っ込んで話を聞いてくれると言うことは、本気で私を雇う気で面接してくれているのだからすごく有難いとも思った。






「それで?正直に言ったの?」



「はい。だからきっと落ちるだろうなって思ったんです」




彼氏に二股かけられていてショックだったからなんて、そんな色恋のことなんかで辞めたなんて。



絶対に落ちたと思った。





「そんな最低な理由だったの?」



「・・・・言わなきゃダメですか?」



「別にいいかな。聞いといてなんだけど、私アナタにまだそんな興味なかったわ」





この頃の三上さんはまだ、きついくらいにサバサバしていた。



きっと私がちゃんと長く続けられる人間でないと、関心を抱いても仕方がないと思ったのだろう。



けれど私は、最初からこの人のことがけっこう好きだなと感じていた。

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