第121話
「あぁ、門倉くんも聞いたの?うん、そうなんだよね」
「なんでも介護のために旦那さんの田舎に引っ越すことになったらしいじゃないですか。これからまた大変っすよね」
「そうだねぇ。慣れない土地に引っ越すばかりじゃなく、そこから初めての介護もだから岡島さんもかなりの苦労を・・・・」
「違いますよ社長。岡島さんも大変っすけど、うちの事務所のことですよ」
「なんで?」
「また誰か探さないと。岡島さんは半年、その前にも2人入社してすぐ寿退社するとか、まともに仕事覚える前に辞めちゃうから三上が超不機嫌なんすよ。ちゃんと続く人間を選べって」
「うーん、そう言われてもねぇ。面接だとそこまで判断できないし、実際雇ってみないことにはわからないよ」
ある程度は透けて見えるパーテーションの向こう側の席から、突然そんな会話が耳に入って来たのだ。
30歳くらいのがっしりとした体型の男性と、もう1人は50歳くらいの、その男性曰くどうやら“社長”らしい。
話を要約すればだ。
アシスタントの岡島さんという女性が来月で辞めてしまうということ。
代わりの人をこれから探そうとしていること。
ちゃんと長く続けて仕事を覚えられる人でなければ、三上さんという方が怒ってしまうこと。
そして。
その社員を雇う決定権のある社長が、今私のすぐ隣の席にいるということーーー
もう迷う暇なんてなかった。
私はガタンと勢いよく席を立つと、パーテーションの向こうにいる2人組みの席に向かった。
「それであっさり雇われちゃうんだから、ほんとラッキーよね、あなた」
2人の会話に登場した三上さんが、まさか女性で、しかも20代半ばのこんな若い方だとは思いもしなかった。
しかも三上さんはその若さにして、既にこの会社のナンバー2の売れっ子デザイナーらしい。
確かにその風格は感じるけれど。
「いえ、そんなすぐに決まったわけじゃないんです。きちんと面接もしましたし、それに、」
「あ、違う。私のカップはこっちの黒いやつだから」
この事務所には私の他に女性は三上さんしかいないくて、だから自然とピンクのカップを手にしてしまっていた。
「このピンクは課長ね。絶対に間違えないで」
このド派手なピンク、課長のなんだ・・・・。
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