第116話

付き合った当初、希和の私への恋愛感情はゼロでしかなく、ただ私だけが好きだった。




完全なる一方的な片想い。




だから昔から好きだったなんて、これ以上重たい想いを知られたくなかった。



もしも希和に知られて、引かれてしまうのも怖かった。



それからずっと、5年経った今でも話せないまま。






ずっと誰にも言えなかった真実を漏らすと同時に、堪えていた涙も零れ落ちた。






「好きじゃないって、なに言ってるの?そんなことあるわけないでしょ・・・・っ」






誤魔化すように目を伏せてしまった私は、杏里の表情は見えないけれど、その声は微かに震えていた。





「たとえ史の言うように始めは好きって気持ちがなかったとしても、今は違うでしょ?!本当に好きじゃなければ、同情なんかでも5年も長く付き合えないよっ」




「うん・・・・それはもちろん、わかってるよ。今は希和は私のことを本当に好きでいてくれてるって、ちゃんとわかってる」






仕事が忙しくて会える日が少なくても、その分会えたときに優しく目一杯私を甘やかす希和。




いつからかなんてわからないけれど。




希和は少しずつ、私のことを好きになっていってくれたんだと思う。



ずっと希和のそばにいたから、希和の私に対する想いも今は本物だと。




私だってちゃんとわかってるよ。








「・・・・だけどね、杏里?



それでも希和にとって浅見先輩という存在は、やっぱり特別なんだと思ったんだよ」





「なによそれ、・・・・・史?」







希和は私のことを傷つけたくないと、最初から忠告してくれていたのに。




それでもいいと、



それでもこの人に近づきたいと、




そう望んだのは誰でもない私自身。




そうして一緒にいる月日が長くなるにつれて、ずっと不安が消えない一方で、どこかでもう大丈夫だって安心もしてたんだ。




このまま希和のそばに一生いるのは自分だと。



それくらい今は愛されてると感じていたから。




だから普通の恋人同士と同じように、私も希和との結婚を望んでいたんだ。






だけど希和はーーーーそうじゃなかった。








「私ね、最初に希和から言われてたんだよ」

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