第115話
「うーーーん」
杏里は頭を抱え込んだ。
「私には、なんで史がそこまで不安になる必要があるのかわかんないよ。だってそうでしょ?史という長年付き合ってる恋人がいるなら今さらどうこうなるなんてあり得ない」
「・・・・それは、」
「もしかして、穂高先輩から何か聞かされたことがあるの?浅見先輩と付き合っていた当時の話とか別れた理由とか」
私はふるふると首を横に振った。
「過去の浅見先輩とのことを、希和の口から聞いたことはないよ」
「だったら、」
「でも、そもそも希和は知らないから」
「え?・・・・知らないって、何を?」
グラスに添えたままになっていた手に、自然と力が入った。
「わ、私が希和と同じ高校の後輩だったってことを」
「え・・・・・・・・」
瞼を閉じればすぐにでも溢れ落ちそうになるものを、必死に耐えながら続けた。
「だから、私が過去に希和のことが好きだったことも、私が浅見さんが希和の元彼女であることを知っていることも。
希和は、なにも知らないの・・・・・・・」
初めて会った文化祭の時での出来事なんて、希和が覚えているわけがなくて。
高校時代だって話したこともなければ、視線だって重なったことさえもなかった。
だから当然だけど、職場で再会したとき、希和は私が誰かなんて覚えているはずもなかった。
「な、なんで・・・・?なんで言わないの!?先輩が高校時代の史のことを知らなかったとしたって、昔も好きだったって聞かされたら普通は嬉しいと思うはずだよ?」
「・・・・言えなかったの」
「だからなんでっ」
「だって、」
言えない。言えるわけないよ。
ただでさえ平衡になることはない天秤に、さらに私の方にだけ重りを加えるなんて。
とてもじゃないけど出来るわけがなかった。
「付き合い始めたときの希和は、
私のことなんて好きじゃなかったから・・・・」
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