第114話
「だけどっ、史は穂高先輩ともう5年も付き合ってるんでしょう?それに昔と違って今は先輩のこと、自然と“希和”って呼び捨てで呼べちゃうような深い関係なんだし!」
史はさらに重くなりかけた空気を振り払うように、わざとらしくも声のトーンを上げる。
「何も知らなかったからさっきはあんなこと言っちゃったけどさ、穂高先輩が10年も前に別れた元カノと、しかも離婚したとはいえ一度は別の男性と結婚した女となんて、今さらどうかなるなんてあり得ないよ」
「・・・・でも、その結婚だってきっと仕方がなかったことなんだと思う。さっき杏里が言ってたように政略結婚みたいなものだったって」
大病院の1人娘である浅見先輩が結婚した相手は、院内に勤めていた優秀な医者だと聞いたことがある。しかも婿養子だと。
想像でしかないけれど、それはつまり、その男性がゆくゆくは浅見先輩のお父様の病院を継ぐ予定だということであって・・・・浅見先輩はその為に結婚させられたんだと思う。
「だからきっと、お互いに嫌いで別れたわけではないと思うから・・・・」
「ちょっと史、だからってなんでそんな自信ないの?例えそうだったとしても、もう過去の話だよ。さっき史だって言ってたじゃない、2人の間には何もないって」
「・・・・言ったよ。それは本当にそうだと思うから。でも、」
希和は誠実な人だから。
浮気はしない人だって信じてる。
だから私と付き合っている限りは、希和と浅見先輩がどうにかなることはあり得ない。
だけどーーーー
「・・・・・・希和の心内までは見えないから」
この先のことはわからない。
私と希和の未来に自信なんてない。
だってまさか2人が”アマン”に行っていたなんてーーーーさすがにショックだった。
きっとその日だって仕事で会っていたのだとは思うし、仕事終わりの流れでもしかしたら食事することになったのかもしれない。
けど、だからってどうして“アマン”なの?
“アマン”で食事する必要なんてあったの?
私の誕生日に2人で行った特別な場所で。
またいつか希和と一緒に私が行きたかった。
2年先まで予約の埋まっている“アマン”に行く方法なんて、ひとつしかなくて。
だけど希和はあのとき、職権濫用は最初で最後だって言っていたのにーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます