第112話

ーーーーそう口にした直後。




脳内で響き続けた雑音が消え、すべての音がクリアに聴こえた。
















「え?え?・・・・・・・・・・・・え?」









杏里は信じられないと言った感じで、わかりやすく動揺した後、今は放心状態に陥っている。





「ごめんね杏里、ずっと黙ってて。昔のこと全部知ってる杏里にはなんとなく言えなかった」





杏里は希和のいた高校の文化祭に私を誘ってくれた張本人で、いわば希和と出逢わせてくれた人。



それからずっと私の見ているだけの恋を、一番そばで見守っていてくれた人でもある。



だからこそ、ぬか喜びなんてさせたくなかったし余計な心配もかけたくはなかった。






「ほ、本当なの?本当にあの穂高先輩と今、付き合ってるの・・・・?」




「うん・・・・信じられないかもしれないけど、本当だよ」




「じゃあ穂高先輩は今、会計士の仕事をしていて、たまたま史の会社の担当になって再会したってことなの?」





私はそっと頷いた。




「先輩ね、大学のときにお母様が再婚したらしくて。だから再会した時には“穂高”じゃなくて

“木嶋”に変わってたんだ」




ずっと片思いしていた穂高先輩は、穂高希和ではなく、木嶋希和になっていた。




「でも再会してすぐに、あの”穂高先輩”だって気付いたの」





高校生のときは茶色く染めていた髪も、再会した先輩の髪は真っ黒で、おまけに眼鏡までかけていて、がらりと雰囲気が変わっていた。



けれど綺麗な顔はそのままだったから。



杏里でさえもすぐに気付いたように、私も一目ですぐに先輩だとわかった。





かつての片思いの相手である穂高希和と再会した私は、自然な流れで再び、木嶋希和に恋をした。





「・・・・なんか、ごめん。驚きすぎて、なんて言っていいのかわかんないや」



「ううん・・・・」




杏里が驚くのも当然だと思う。


私だってこんなに長く付き合っていても、未だに信じられないのだから。




「酔いもすっかり冷めちゃったし」



「うん、ごめんね・・・・」



「謝らなくていいし、責めるつもりもないんだけど。・・・・でもどうしてずっと、教えてくれなかったの?」



「・・・・・・・・」



「昔ずっと好きだった人と再会して、今付き合えてるんだもん。私、喜んでいいんだよね?」




もう、誤魔化す言葉も何も見つからなくて、私はただ曖昧に微笑むしかできなかった。

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