第111話
「・・・・ーーーー」
ほんの一瞬。
視界を遮断するかのように、目の前が真っ暗に染まった。
その直後、キーンと金属がぶつかり合ったような異常な高音が左耳から内部を何度も貫いた。
ぐっと顔を顰めながらテーブルに肘をつき、耳とこめかみを同時に抑えた。
「・・・・・・・・・・み、史?」
「え・・・・?」
「ねぇ、どうしたの?」
テーブル越しに前のめりな体勢で、杏里が心配そうな顔を私に向けていた。
「なんだか顔色が悪いけど大丈夫なの?」
高音が治まったかと思うと今度は、ぼーんという低音が雑音のように続いている。
「・・・・大丈夫。たぶんちょっと、ハイペースで飲み過ぎたみたい」
「お水貰おっか。史はもう今日、お酒禁止ね」
そう言って杏里はコールボタンを押した。
「でも史。お酒のせいだけなら、なんでそんな顔してるの?」
「そんな顔・・・・?」
「今にも泣きそうな顔してる」
「ーーー・・・・」
小さく息を吸い込んだところで、店員さんの「お待たせしましたーっ」と言う明るい声が空気を裂く。
杏里がお水をお願いして、店員さんが去ったあと。
「ねぇ史?まさかとは思うけど、本当はまだ"穂高先輩"に多少なりとも未練が残ってるんじゃないの?」
「・・・・そうじゃなくて、」
「今の彼のことも本当に好きなんだってこともさっきの史の表情から伝わったよ。だけどその一方で、やっぱり”穂高先輩”のことを想う気持ちがあるから2人がまた寄りを戻すかもって聞いてショックを受けたんじゃなーーー」
「違うの杏里。そういう話じゃないの」
耳から手を外し、真っ直ぐに杏里を見据えた。
「それに、その2人の間には本当に何もないから」
あるはずがないんだ。
少なくとも、今はまだ、何も。
「なんで史がそんなことーーーー」
「“穂高先輩”は、今は私と付き合ってるの」
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