第110話
「そんな2人が、まさか別れちゃうなんてね」
「・・・・うん」
「けどさ、あんな素敵なレストランで一緒に食事してたってことは、また2人の寄りが戻ったってことなんじゃないかなってーーー」
「っ、それはないよ!」
ちょうど枝豆を咥えていた杏里の口から、ぽろりと一粒緑の豆が転げ落ちた。
「・・・・・・・史?」
その豆には目もくれず、杏里はそのまま大きく目を見開いた。
「え?一体どうしたの?なんでそんなムキになってるの?」
「・・・・だって、ほら、杏里が変なこと言うからだよ」
「変なことって」
「だって彼女のほうは、今は別の人と結婚してるんだよ?だからそんなのあり得ないよ」
そうだよ、・・・・あり得ない。
"穂高先輩"が地元を出て、彼女とともに都内の大学に進学した後のことは何も知らなかった。
けれど卒業後、彼女だけが地元に戻ってきて、
"穂高先輩"とは別の男性と結婚したと自然と耳に届いた。
それほど大きな町でもなく、彼女は大病院の1人娘だったから噂はすぐに広まったのだ。
ーーー"穂高先輩"は今、どうしているだろう。
真っ先にそう思った。
だけどその時の私には付き合っている恋人がいたし、もう今さらどうすることもできないのだからとすぐに思い直した。
「・・・・違うよ、史」
「え?」
「その“お姫様”、離婚したらしいよ、去年」
・・・・ーーーーーーえ?
「いや、ほらさぁ。私も最初2人を見かけたとき、相変わらずの美男美女でお似合いだなって思わず興奮しちゃったんだけど。よくよく考えたらもしかして私、不倫現場を目撃しちゃったのかなって思って。それですぐに友達何人かに聞いたのよ。そしたら去年別れたって・・・・」
結婚していても、金属アレルギーだったり仕事上不都合だったりして、左手の薬指に指輪を嵌めない夫婦は沢山いる。
だから彼女の綺麗な指に何も身につけられていなくても、何かしらの事情があってのことだと勝手に結論づけていた。
「でもさぁ。その“お姫様”の結婚も、もともとは政略結婚みたいなものだったらしいから、気持ちはあの頃のままだったのかも。それか再会して想いが再燃しちゃったのかもしれないね」
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