第109話

"アマン"から、"穂高先輩"が・・・・?






並べられたそのワードだけで、一瞬呼吸が止まりそうになるのをどうにか耐える。






「・・・・・それって、いつ?」



「んー、2週間くらい前だったかな」



「それって本当に"穂高先輩"だったの?」





先輩が卒業してから、1度も会ったことはないはずなのに。




「そりゃあ昔と随分、雰囲気は変わってたけどね。でも一般人であそこまで恐ろしく顔が整った人ってそうそういるものじゃないじゃない?だからすぐに穂高先輩だってわかったよ」






杏里がそこまで言うんだ。



ーーーきっと人違いなんかじゃないのだろう。







「・・・・杏里」



「んー?」



「"穂高先輩"は、そのとき1人だった?」



「まっさかー!あんな特別なフレンチレストランだよ?男1人なわけないでしょー?」



「・・・・そう、だよね」





通常なら2年先まで予約が埋められている“アマン”。



たまたまクライアントにアマンのオーナーと知り合いがいるからと、希和は誕生日に私を連れて行ってくれた。



それくらい特別な場所に、男性が1人で行くのはきっとあり得ない、よね。






「誰か、女の人と一緒だったの?」




「穂高先輩を久し振りに見かけて驚いたけど、もっと驚いたのは相手の女性。


あの頃も穂高先輩と並んで同じくらい目立ってから、やっぱり誰かすぐに気付いたよ。相変わらず絶世の、ううん、さらに大人の色気も加わっててイイ女になってた・・・・って、ここまで言えば誰かわかるでしょ?」




「・・・・うん」




本当は、杏里に聞く前から察しはついていた。





「"アマン"から一緒に出てきたのは、バスケ部のマネージャーしてた穂高先輩の元カノ。名前は忘れちゃったけどさ、周囲からは"お姫様"とか呼ばれちゃうくらい綺麗な人だったよね」





・・・・すごくよく覚えてる。



当時のことは忘れたくても忘れられないから。



一瞬で敵わないと思わせるくらいに、とてもお似合いだった2人。



嫉妬という感情でさえも、それは無意味なものだった。



完璧な容姿もそうだけど、なんていうか、2人の纏う空気が同じで。



誰もその世界には踏み入ることなんてできなかった。







「校内でも誰もが認める公認のカップルでさ。史には悪いけど、絶対にあの2人はこの先もずっと一緒にいるんだろうなって思ってたんだよね」



「・・・・私も、そう思ってたよ」




だから、高校まで先輩を追って来たのに、話しかけることも気持ちを伝えることもできず、ただ見つめたままで終わってしまった恋だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る