第108話

「見かけたって、」



「もちろん穂高先輩をだよ。少し前に彼が本社に半日だけ用があって、私もそれに着いてきたことがあって。そのときにね」



「そう、なんだ・・・・」






杏里がただ見かけたというだけで、私はなんでこんなに脈を打つのが早くなってるんだろう。





「穂高先輩がこっちの大学に進学したことは知ってたけど、就職もそのままこっちでしたってことなのかな」




その答えを杏里は私に求めたわけではないようだから、私は何も言わずにただ次の言葉を待った。






「史は、"アマン"ってお店知ってる?」



「えっ?」





杏里の口から出た意外なお店の名前に、私は小さく驚いた。



・・・・知ってるも何も。



それは私がずっと行ってみたかった完全予約制のお店で、今年の誕生日ディナーに希和が連れて行ってくれたばかりのお店だ。



知る人ぞ知る名店ではあるけれど・・・・。





「2年待ちとかで、なかなか予約も取れないっていうフレンチレストランらしいんだけど」



「うん、すごく素敵なお店だよ。外観からしてお洒落だし、料理ももちろん美味しいし」



「え!史、行ったことあるとか?!」



「あ、うん、ちょうど最近ね」



「えーすごい!いいなぁ羨ましい。私も2年後でもいいから今から予約しとこうかな。確かに外観もすごく素敵だったし」



「え?見たの?」



「ちょうどその前を通りかかったんだよね。私は知らなかったんだけど、一緒にいた彼が隠れた人気店だって聞いたことがあったらしくて」



「そうなんだ・・・・」






ーーーって。




"穂高先輩"の話から、どうしていきなり"アマン"に飛んだのか理解できず、それを尋ねようと口を開きかけたところだった。











「その"アマン"からね、ちょうど出てきたお客さんがいて。それがなんとーーー





“穂高先輩”だったんだよね」














ーーーー・・・・え?

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