第107話

「ーーー穂高先輩」







たった今潤したばかりの喉が一気に渇く。



置いたばかりのグラスを再び口に運んだ。






「史ってば、え、ちょっと動揺してる?」



「・・・・杏里がそんな昔の話を急にするから」



「あの頃の史って本当に穂高先輩一色だったよね。先輩には彼女がいたこともあって、ただ遠くから見つめているだけの直向きな片思いだったけどさぁ」




もうやめて欲しいのにと抗議の目を向けるも、気付かないのか気付いていない振りをしているのか、杏里の口は止まらない。




「大学に入ってようやく史に初めての彼ができたけど、それでもまだ穂高先輩のこと引きずってるんじゃないかなって思うときもあったよ。言わなかったけどね」



「そんなことない。ちゃんと好きだったよ、その彼のこと」




好きじゃなければ、初めてのキスも身体も許したりできなかった。




「それはもちろんわかってるけど。だけど穂高先輩以上には好きにはなれなかったでしょ?って話だよ」



「・・・・・・・・」





再びグラスを手にするも、もう空だったことにそこで初めて気付いた。



その姿に杏里は笑いながら「同じのでいい?」と再び店員さんを呼んだ。






「でも今の彼は違うよね」



「え?」



「今の彼のことは本当に、本気で想ってるんだなって思った。・・・・彼の話をしてるときの史、あの頃の、穂高先輩のことを好きだった史と同じような目をしてたから」



「・・・・・・・・」






すぐに運ばれてきた梅酒に変えて頼んだファジーネーブルが思ったよりも甘いせいか、口の中が気怠い。



大好きな親友なのに、仕事と距離を言い訳に今まで積極的に会おうとしなかったのは、あまりに鋭すぎるからだと今確信した。




「ふふ、図星でしょー?」



「・・・・さあ?」





私の反応に、杏里はまた笑った。



今日は笑われてばかりだ。






「ちゃんと時効になってるのなら、もう話してもいいのかな」



「・・・・?」



「実はね、偶然なんだけど最近ちょうど見かけたんだよね」




え・・・・・・・・

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