第105話

「・・・・うん」




本当は、言うつもりなんてなかったのに。




「彼が担当を外れる最後の日、これでもう2度と会えなくなっちゃうかもしれないって思ったら、つい勢いで。・・・・必死だった」




思い出すだけで恥ずかしくて、誤魔化すように梅酒をぐびっと口に含んだ。




「ーーーそうだったんだ。私ずっと彼のほうから史に告白したんだろうなって勝手に思ってたよ。だって史、今まで1度も自分から告白なんてしたことなかったよね?」






杏里の言う通り、大学のときの彼も社会人になって付き合った上司も、始まりは向こうからだった。



まあ別れを切り出すのも向こうからだったけれど。







「よっぽど好きなんだね、その彼のこと」





私は黙ってこくりと頷いたあと、





「好きだよ、ーーーすごく」





そう素直に想いを口にした。







「史のその気持ちに彼も応えてくれたんだね」




「・・・・・・、」




杏里の言葉になんて返して良いのかわからないまま顔をあげると、満面の笑みの杏里がいた。




「よかった、本当に。正直前のあの彼とのことがあったせいで、史はもう本気で誰かを愛せないんじゃないかって思ってたから」



「杏里・・・・」



「だから今の彼のことが本気で好きなんだって、その彼とずっと付き合っていたんだってわかって本当に嬉しいんだよ」




そう言った杏里の笑みは今日見た中で、間違いなく一番だった。





事後報告ではあったけど、杏里にも上司と付き合って裏切られてしまったことは話していた。



あの時どん底には落ちたけれど、希和と出逢ったおかげで私は早い段階で立ち直ることができたのだ。



だけど杏里は口には出さなかったけど、実はずっと私のことを気にかけていてくれたんだ。





「・・・・ごめんね、杏里」




「やだ、なんで謝るの?親友なんだから心配するのも当然でしょ?」





私の謝罪の理由を誤解した杏里。




杏里もカエちゃんと一緒で、私のことを本当に思ってくれているから。



杏里もすべてを知ってしまったならきっと、その笑顔は曇らせてしまうんだろうな。





・・・・こんな恋しかできなくて、ごめんね。

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