第98話

思えば"穂高"という名前を久し振りに聞いたあの日、過去に引き戻されるようにあの頃の夢を見た。



偶然なのか何かの暗示なのか、それから少しずつ揺らぎ始めたように感じる希和との関係。



だけどそれはたまたまで、直接この"穂高さん"に関係があるわけじゃない。






「穂高さんって再婚する気、あるんですか?」



「は?」



「いえ、・・・・1度失敗してるからトラウマになってもういいやとか思わないのかなって」





それに森さんの話では、別れた奥さんのことが今でも忘れられないでいるみたいだし。


さっきだって離婚の話をしていたとき、気のせいか、声が少しだけ辛そうに感じた。



本当に再婚する気があるのかな。





「さすがに離婚したてのときは2度と結婚なんてしねぇだろうなって思ったけどな」




穂高さんはくっと笑った。




「けど、離婚してもう5年も経ったんだ。このままずっと1人でいるのもなんだし、やっぱパートナーは欲しいかなってちょうど思い始めたとこだったんだよ」



「そうなんですね・・・・」




じゃあ元奥さんのことは吹っ切れたのかな?


それとも完全に吹っ切るために、前に踏み出そうとしてるとか・・・・?




「結婚てさ、血の繋がりのない他人同士が籍を入れたその日から突然家族になるんだよ。別れない限りその相手と死ぬまでずっと一緒にいるんだ」




未経験の私からすれば結婚することがゴールみたいに考えがちだけど、本当は結婚がまた新たな人生の始まりでもあるんだよね。



1度経験しているからこその穂高さんの言葉に静かに耳を傾けた。




「だからさ、お互いに相手が今何を思っているのか常に理解し合おうとすること。わかり合えなければ、きちんと自分の気持ちを口に出して伝えられること。単純だけどそれがすごく大事なんだよ」




「・・・・・・・・」




「最初から偽らずに自分をすべて見せられる相手じゃねぇと、やっぱ続かねぇんだよ」










ーーー・・・・耳が痛い。





希和の負担になりたくなくて、



希和に嫌われるのが怖くて、




希和にとっていつだって理解あるいい女でいたかった私は、いつも自分の気持ちを抑え込んでいた気がする。




私がこれまでずっと希和に見せてきた姿は、偽りばかりだったのかもしれない。

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