第95話
「べつに珍しい話じゃないだろ、バツイチなんて。ーーー俺が彼女と結婚しようと思ったのは彼女を他の男に取られたくなかったからだよ」
なんだかんだ言いつつも、穂高さんは自分のことを話してくれた。
「取られたくないって。独占欲ですか?」
「まーな。高校からずっと付き合っていた彼女が、大学卒業後に一般企業への就職が決まったんだ。俺のこんな仕事とは全く違う、未知な世界に進んでいく彼女を繋ぎとめておきたかったんだよ。ほら、森ちゃんの言うように彼女、すっげー美人でモテモテだったし」
「穂高さんってそんなに若くして結婚してたんですね」
「そ、大学卒業後にすぐ。若かったからだよ。なんにも深く考えずに勢いで行動してた。
・・・・やっぱ参考にならなくねぇか、これ」
「それってつまり、頭じゃなくて、心が動いたってことですよね?それくらい彼女のことが好きだったってことですよね・・・・」
ーーー千家さんも言っていた。
最終的に頭ではなく、心が"この人だ"って動くかどうかだったって。
本当はもう・・・・気づいてはいるんだ。
希和の心の奥底で、今も燻り続ける感情に。
ただ認めるのが怖かった。
だって認めてしまったら、私達はどうなるの?
昨夜、希和のあんな表情を見てしまったというのにーーー・・・・往生際が悪いよね。
「皆原さんが一体何を抱えてんのか知らないけどさ。男とか女とか性別じゃなくって、年齢的なものもあると思うよ」
「年齢・・・・?」
そういえば穂高さんって今いくつなんだろう。
私よりは確実に歳上なんだろうけど、見たこともないから外見からも判断できないし。
「それだって人それぞれだろうけど、少なくとも俺はあのとき若さ故に突っ走ったことに間違いはないから。本当にただの独占欲丸出しのガキだったんだよ」
「だけどそれは、彼女に対する好きっていう想いが大きかったからであってーーー」
「それでも今のこの歳になった俺なら違うよ」
「・・・・え?」
「同じくらい彼女のことが好きだとしても。まず彼女の幸せを第一に考えて、自分の感情のままには決して突っ走らないだろうな。突っ走れない、が正しいな」
それはまるで若くして彼女と結婚した過去を、後悔しているようにも聞こえた。
穂高さんは今、森さんが言っていたような切なげな表情をしているのだろうか。
「慎重にもなるよ、いろいろ考えちまって。好きなら尚更そう簡単に相手の人生背負えねぇって思う。年齢もあるし、一度失敗してるから言えることだけどさ」
「・・・・・・・・」
「なかなか結婚に踏み切れないってだけで、想いが大きいとか小さいとか好きとか好きじゃねぇとかさ、一概に言えないだろ。
彼氏もそうなんじゃねーの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます