第94話

「・・・・・・・・」




勘付かれるかもとは思っていたけれど、やっぱり。





「皆原さんは早く結婚したいのに、彼氏がいつまでたってもプロポーズしてくれないから悩んでんだ?アラサーこじらせ女子?」




「・・・・そういうわけじゃなくて」




なにその、"アラサーこじらせ女子"って。




「違うの?あぁ、そういや前に言ってたよな。自分も結婚したいのかしたくないのかわからないって。ただの強がりかと思ってたけど」




よく覚えてるなぁ。


以前にも少し穂高さんと希和の話をした時のことだ。




「強がりなんかじゃなくて、本気でそう思ったんです」



「なんだよそれ。自分だっていろいろ迷ってるくせに、相手には結婚の決意だなんだって求めてんのかよ」




「・・・・それは」





普通の恋人同士とは違う、希和との間にある複雑な感情を穂高さんはもちろん知らないから。



だからきっと、理解できない。





「私はただ一般論を聞きたかっただけです。そういう穂高さんはどうなんですか?」




「俺?」




「この人と結婚しようって、いつどうやって決めたのかなって・・・・」





口に出し切った後で、しまったと思った。






「ーーー知ってたんだ、俺が結婚してたこと」




バツイチであることは、穂高さんからではなく森さんに聞いた話だったのに。






「森ちゃんか」



「・・・・すみません」




森さんもごめんなさい。




「べつにいいけど。隠していたことでもなければ、聞かれて困ることでもねーし。けどもう結婚したのなんて随分と昔だし、俺の話なんて参考にはならないと思うけど」



「・・・・詳しくは聞いてないんです。ただ学生時代から付き合っていた彼女と結婚したことと、5年ほど前に離婚したことくらいしか。あ、あと元奥様がとても美人だったって」




その元奥様にまだ未練があるらしいってことまでは、さすがに言えなかったけど。



意外にも淡々と話す穂高さんの様子からして、本当にそうなのかはわからないし。




「森ちゃんにも俺からバツイチってことは言ったことないから、たぶん前担当者あたりから聞いただけだしな。けど美人ってあいつ、部屋にあった写真見たのか」



穂高さんは特に怒っている様子でもなく、笑いが混じっていたからちょっとほっとした。

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