第93話
「皆原さんさ、なんかあった?」
今朝私の部屋をあとにした希和に何度か言われた言葉を、今度は穂高さんに投げかけられた。
「何でです?」
「話し方が溜め息混じりだから」
ただ私の口から出たのは、希和とは違う返しだった。
「・・・・親友がね、今度結婚することになったんです」
「ふーん。じゃあ女によくある先を越されたとかで、嫉妬とか焦りで落ち込んでんのか」
よくあるって、確かにその気持ちもわからないでもないけれど。
私もそれほど親しくない同級生の結婚報告は、素直に喜べなかったから。
「違いますよ。その親友の結婚はホントにすごく嬉しかったから。そうじゃなくて、その子は付き合って1年で、彼の転勤を機に結婚が決まったんですけど」
「転勤?」
「はい。って言っても転勤先が都内で、もともと実家のある地元もそれほど遠くないんですけどね。帰ろうと思えばすぐ帰れますし。でもそのことが彼にとって結婚を決意するきっかけになったんです」
「それで皆原さんはなんでそんなに落ち込んでるわけ?」
"なぁー"
「べつに落ち込んでるんじゃないです。ただ、男の人が結婚したいって思う相手とタイミングってどんなんだろうなって考えちゃって」
いつもと同じ煙草の香りと、ときどき聴こえるノラちゃんの声。
いつの間にか私の日常に当たり前のように加わって、だからか思うがままの気持ちを壁の向こうに吐露していた。
「転勤なんて、そうそうあるものじゃないし。あとは子どもができたとかもそうだけど、それ以外だといつどんな状況で男の人って決心するのかなって思ったんです。きっかけもそうだけど、その相手も」
「それってさ、べつに男だからとか女だからとか関係なくねえ?」
「でもプロポーズって、男性からするのがほとんどじゃないですか。だから女性より男性の方が結婚を決意するハードルって高いような気がするんですよね」
相当な固い決意がないと、給料3ヶ月分と言われる婚約指輪なんて買えないと思うのだ。
もちろん受け入れる女性だって、それ相応の覚悟はいるけれど、やっぱり受け身な場合が多いから、男性の意識とはまた違うんじゃないかと私は思ってしまう。
「そんなもん考えたって意味ないだろ。人それぞれ違うんだから」
そうなんだけど。それはわかってるけど。
それを言われちゃあ・・・・
「なに?彼氏のこと?」
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