第91話
「彼がこっちにある本社への転勤がきっかけで結婚することになったらしくて。だからもしかしたらそれどころじゃないのかもしれない」
もう新居を探し始めるくらいだし。
「・・・・彼の転勤でって、それって彼の都合で結婚が決まったってこと?それでもその友達はプロポーズを喜んだの?」
「え?あ、うん。もちろんだよ」
どうしてそんなことを聞くんだろうと少し不思議に思いながらも、頷いた。
「杏里の彼は取引先の人でずっと憧れてた人だったから、付き合えた時もすごく嬉しそうだったの。だから杏里もいつかは彼と結婚したいって考えてただろうから、すごく嬉しかったと思う」
実際に、電話から聴こえてきた杏里の声は、幸せが滲み出ていたように思うし。
「・・・・そっか。それならいいけど」
「それにきっかけは転勤で突然だったかもしれないけど、相手は6つも年上だし、そういう杏里だってもうアラサーなんだから当然近い将来の結婚も考えていなかったわけじゃーーー」
・・・・・・・・あ。
その後に続けた「ないと思う」という語尾は、かなり弱々しくなってしまった。
これって遠回しに、"私も考えてます"って言ってるみたいに聞こえた・・・・よね?
私だって杏里と同じ、アラサーなわけだし。
杏里の結婚報告をきっかけに、今まで実はそれとなく避けてきた話題にあっさりと触れてしまった。
ーーー希和はどう思っただろう?
私はそっと視線だけを隣に流した。
するとしっかりと私のほうを見ていた希和と、がっつり目が合った。
「史もやっぱり結婚願望ってあるの?」
「え・・・・」
希和の瞳が真っ直ぐに私を射る。
こんな風に希和が結婚について口にするのは初めてて、私の心臓はドキドキ鳴り始めた。
「それは、一応・・・・。したいって言うより漠然といつかはするものなんだろうなって。子供も欲しいし・・・・」
「ーーーそうだよな」
希和の感情の読めない抑揚のない返しに、なんだか萎縮してしまった私は、
「でも!まだ具体的にとか考えてるわけじゃなくて、今はまだ全然想像もつかないし。だからすぐにじゃなくてもいいかなって思ったりもしてて・・・ーーー」
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