第90話

「妊娠じゃなくってね、実は彼の転勤がきっかけでプロポーズされたの」



「え・・・・転勤?杏里、どこか遠くに行っちゃうの?」



「ううん、違うの。その逆だよ」



「逆?」



「私もそっちに行くことになった」





そっちって、え?こっち?




「杏里も東京に来るってこと?」



「そうなの!彼の本社への栄転が決まって、結婚してそっちに一緒に引っ越すことになったんだ。だからこれからまた史と頻繁に会えるようになるよ!」



「うそホントに?嬉しい・・・・!」



「ふふっ、私も嬉しいよー」





杏里が今いる私たちの地元は隣県だから、今だってそれほど離れているわけじゃない。


それでもお互いに仕事もあるし、私があまり実家に帰らないこともあったりでほとんど会えていない状態が続いていた。




だけどこれからは・・・・そっか。また気軽に会えるようになるんだ。



嬉しい!嬉しい!嬉しい!



正直、結婚の報告よりも喜んでしまった。





「でね、さっそく来週末、忙しい彼の代わりに私1人でそっちに物件とか見に行こうと思ってるんだけど、史空いてる?食事しがてら会おうよ」



「空いてる空いてる!じゃあ私、物件探しも付き合うよ」



「ホント?助かるー」





待ち合わせ場所や時間などについてはまたメールで決めようということになって、電話を切った。














「なんだか嬉しそうだね」





気を利かせてゆっくりとお風呂に入っていてくれた希和が、戻ってくるなりそう言った。




「あ、うん。杏里が、電話くれた友達が結婚することになったって・・・・はい」




冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファに座ろうとしていた希和に手渡した。





「ありがとう」



「おつまみも何か作ろっか?」



「いや、いいよ。それで?結婚式に出席してくれって言われたの?」



「あ・・・・」




私もミネラルウォーターの入ったグラスを抱えて、希和の隣に座った。




「そういえば、結婚式はどうするんだろ。そのことは何も言ってなかったっけ」




来週末、会った時に聞いてみよう。

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