第87話

「・・・・そっか、わかった」






言葉とは裏腹に、たぶん希和は納得はしていないのだろう。



けれどそれ以上聞いてくることはなかった。



希和は腕枕を解くと私をぎゅっと抱きしめた。






「だったらもっと甘えてよ」





少し痛いくらいの強さだった。






「全然、足りない」




「・・・・うん」




そう言った希和の声が、なぜだか寂し気に聴こえた。




私はもしかしたら、私が思う以上には、希和に愛されているのかもしれない。




ーーーそう、思いたい。











「・・・・希和」



「ん?」



「もしもし、希和さん」



「んー?」



「なんか手が、動いてるんですけど」





腰に当てられていた手が、いつの間にか下に降り、何やらもぞもぞと怪しい動きをしている。





「うん。だって、動かしてるから」



「ちょと待っ・・・・・・・・」






だってまだ、終わったばかりなのに。



こうして求められることはもちろん嬉しいけれど。






「・・・・あっ」





思わず漏れてしまった私の声に、希和が満足気ににやりと笑った。



その笑みが悔しくて、希和の腕から逃れるようにむくりと上半身を起こした。





「喉渇いたから、飲み物取ってくる」





ベッドから這い出ると、





「なんだ残念」





希和も私に続いて体を起こした。




隣の部屋に聴こえたらと、必死に声は我慢していたはずなのに喉はカラカラだった。






「希和もお水でいい?」




冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、すぐ背後まで来ていた希和にそう尋ねた。





「俺はもう少しビール飲もうかな」




「わかった」







そう返して、再び冷蔵庫を開けようとした時だった。



耳慣れた電子音がその動きを止めた。

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