第86話
「やっぱり、何かあったんじゃないの?」
希和に腕枕をしてもらいながら、乱れた息を整えているときだった。
希和が私の髪に触れながら、再びそう尋ねてきた。
「いつもと違ったから」
「違った?」
「ベッドの中でこんなに積極的な史、見たことなかった」
「・・・・っ」
数本束ねた私の髪を、ぐるぐるっと自分の指に巻きつけて遊んでいる希和。
"終わった後に行為中のことを言うのは、なんとなくルール違反だと思う"
そう言いたいのに、それすらも恥ずかしくて口にできない。
だから代わりに、
「希和」
そう名前を呼んで精一杯の抗議の目を向けた。
そんな私のおでこに希和はキスを落とした。
「嬉しかったし可愛かった。積極的な史も大歓迎だなって思ったよ。けど史にそうさせる理由がもし何かあるのなら、話は別だと思って」
希和の声質から、本気で心配してくれているのが伝わってくる。
・・・・どうする?
アサミさんのことが不安だと伝えるべき?
だけどなんて言えばいいの?
クライアントである限りアサミさんと会わないなんてことは無理だし、ただ希和を困らせるだけの気もする。
それにきっと、希和にはわからない。
どうして私がこんなにも不安になるのか。
ーーーだって希和は、何も知らないから。
「何もないよ、ホントに」
希和の瞳を真っ直ぐに見つめながら、小さく笑った。
「さっきも言ったけど、ただ久しぶりに会えた希和にすごく甘えたくなっちゃっただけだよ。だから恥ずかしいからいつもと違うとか、あんまり言わないで」
やっぱり希和には、すべて伝えるべきじゃないと思った。
話すことで、それが希和が遠くに離れていってしまうきっかけになる気がした。
「・・・・また、こうしてときどき甘えたいから」
縋るように希和の胸に頬を寄せた。
苦しくても、嘘を吐いても、それでも希和のそばにいたいと思った。
希和がいてくれればそれでいい。
ずるい私は、可能な限りは彼にしがみついていたいと思ってしまうのだ。
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