第84話

「史には我慢ばかりさせてるってちゃんと自覚してる。約束だってドタキャンばっかだしな。それでも史は決して俺を責めないだろう?」




こつん、と希和と私のおでこがぶつかった。





「このままじゃ駄目だって、俺も考えてるよ」




「え・・・・」




「考えては、いるんだ」





ほんの僅かに視線を上げると、すぐに希和の瞳を捕らえることができた。





「希和・・・・?」





噛みしめるように同じ言葉を繰り返した希和。




考えてるって、何を?



それってもしかして、私たちのこれからに繋がることなの?




良いことなのか。



それとも悪いことなのだろうか。




"考えてはいる"ということは、希和の中でまだ今は答えが出ていないということ・・・・?




瞳の奥に秘められた思考を読み取ろうと、必死に希和を見つめた。






「ーーーけど、ごめん」





希和は少し目尻を下げ、困ったように笑った。






「今はそれどころじゃなくなった」




「へ?」







馬鹿みたいな声を漏らした唇は半開きで、その隙間から希和の熱が一気に入り込んだ。






それどころじゃないって、



ーーーこういうこと?







「・・・・っん」





反射的に身体が仰け反る。



けれど希和ががっしりと私の後頭部を支えていたから、私たちはそのまま離れることなくキスを続けた。





「史」





希和のぬくもりが消えてしまったことに寂しさを感じていると、





「ひゃ・・・・っ」




突然、身体がふわりと浮いた。





「キッチンで立ってするのも俺的には唆られるけど、ただでさえ史は病み上がりだしね」




にやりと笑った希和に私はーーーいわゆる"お姫様抱っこ"というものをされていた。





「ソファかベッド、どっちがいい?」



「・・・・ベッドでお願いします」




私は希和の首にぎゅっと腕を絡めた。

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