第83話

「ーーー・・・・かった」







無防備に空いた目の前の身体に、ぽすんと顔を埋めた。







「希和に、会いたかった」







それから布巾を預けたことで自由になった両手を、希和の背中に回した。







「史・・・・」








ーーーごめんね、希和。




希和が私のことをどう考えていようとも、私は自分の想いを変えられないから。





希和の負担にはなりたくない。



希和の幸せを誰より願ってる。





・・・・ずっとそう思ってきたのに。





アサミさんのせいなのか、



会えない寂しさのせいからなのか。





希和の想いを無視してでも、希和が私を突き放さない限りは、私から希和を手離すことなんてもうできそうにないよ。





ーーーそれにね、希和。



やさしい希和が、私のこの手を簡単に振りほどけないことも、知ってるんだよ。







「ごめん、史。最近は特に全然会ってやれなくて悪かった」






そのやさしさを私は今、利用しているんだ。




ごめんね希和。



私の方こそ、ごめんなさい。






「・・・・今こうして会えたから、いいよ」





もっと近くへもっと深くへと、希和の胸に頬を擦り寄せる。






「史、何かあった?」



「・・・・何もないけど。どうして?」




くぐもった声でそう返すと、




「いや、史がこんな風に自分の感情をぶつけてくるのって珍しいなと思って。俺は嬉しいんだけど、ちょっと気になった」




希和は私の髪をそっと撫でた。




「本当に何もないよ。ただ久し振りに希和の顔見たら・・・・甘えたくなったのかも」




「ーーーお皿拭くの、あとでいい?」




「え・・・・・・」




私を覗き込むように希和が体を屈めたかと思うと、10センチにも満たない至近距離の希和の瞳とぶつかった。

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