第81話

案の定。



翌日私は、高熱を出し仕事を休んだ。




・・・・本当に情けない。





希和に会えたのは、3日後の週末だった。
















「わ、やっぱりすごく辛い!痛い!」





慌てて取ったティッシュで、ヒリヒリする唇を必死に抑えた。





「うー、でも癖になる美味しさではあるかも」





熱さと痛みに顔を歪めながらも、箸は止められそうにない。



中毒的な旨味が、確かにある。





希和が今回の出張先である中国から買ってきてくれた、本場の麻辣火鍋(マーラーフォーグォ)の調理キットを使ってさっそく作ってみたのだ。



見るからに深い紅が、食べる前から危険な感じを物語ってはいた。




「これを美味いって言える余裕があるなら、史も辛さにけっこう強い方だと思うよ」




茹でタコのような顔をしているであろう私を見て笑っている希和は、信じられないくらい平然とした表情で食べていた。



とても同じものを口にしているとは思えない。




「希和こそ、これが平気ってどんだけ強いの」



「いや、辛いよ?けど向こうに駐在してる社員の人に連れっていって貰った店で食べたのが強烈な辛さだったから。それに比べたらね」



「これ以上?!無理!絶対ムリだよ」




絶対に舌がおかしくなる。



その社員さんとかもきっと、舌も脳も壊れてしまっているのだろう。






それでも2人で食べるきるにはちょうど良い量で、あっという間に平らげてしまった。



食事を終えて鍋や食器をキッチンのシンクに運んでいると、希和がその前に立ってスポンジを握った。




「洗うから史は座ってていいよ」



「えっ、私がやるから希和こそ座っててよ」



「俺がやる。だって史、病み上がりだし」



「もう全然平気だよ。希和こそ今日も半日仕事してきたでしょ?」



「いつものことだから疲れてないよ」




互いに譲らず、けっきょく2人並んで片付けることになった。

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