第79話

「なんだって、お刺身ですけど?」



「わかってるよ、そうじゃなくて。おまえ余りものって言ったよな?」



「言いましたけど・・・・」





最近では穂高さん、ときどき私のことを"皆原さん"じゃなくて"おまえ"と呼ぶようになった。



別に嫌な感じではないから良いんだけど、なんだろう。



まだ顔は合わせたことはないけれど、穂高さんとの距離がどんどん近づいていってるような気がする。






「こんな大層な盛り合わせで、まったく手がつけられてないんだけど?これの一体どこが余りものなんだよ。余りものっつーから、もっと切れ端みたいなもんかと思ったのによ」



「買ったはいいけど食欲がなくなっちゃって食べれなかったんです。だから良いんです、気にしないで遠慮なくどうぞ」





明日私が焼いて食べてもいいんだけど、他の残った料理もあるからきっと食べきれないだろうし。




「本気でこれをノラにやるつもりだったのか」



「はい」




2人前だし、さすがに多すぎたかな。





「あ、じゃあ穂高さんもよかったら」



「普通は先に人間の俺にすすめるだろ!」



「そっか、そうですよね」




でも穂高さんにあげるとなると、なんだか重たいというか、そんなに親しかったっけ?と、自分の中で躊躇してしまっていたかも。



・・・・あぁそうか。



私は変わらずに壁を作って構えたままでいるのに、穂高さんのほうがときどき自然とそれを越えてくるんだ。



だから距離が近づいている気がするんだ。



人見知りな私も、それを違和感なく受け入れているから不思議だけれど。






「これってさ、本当は彼氏と一緒に食べるように買ったんじゃねぇの?」



「・・・・そこは触れないでくださいよ」



「振られたんだ」



「仕事だから仕方ないんです」





テンプレートのように、お決まりの言葉を口にする。



そこになんの感情も乗せずに。

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