第78話

「っ、おまえ、こんな夜にンな大声出すなよ」



「・・・・ごめんなさい」





慌てて、片手で口を塞いだ。





そうだった。



朝とは違って今この時間帯は、けっこう声が響く。声のトーンを抑えて、先ほど思いついたことをそっと口にした。





「あの、ノラちゃんってお刺身食べます?」




「は?」




「実はちょっとワケあって余っちゃったのがあって」




他の料理はタッパーに入れて明日食べれば良いんだけど、さすがにお刺身だけは・・・・。



まぁお刺身も焼いてしまえば食べられるんだけど。



どうやら美食家らしいノラちゃんが食べるようなら、あげても良いかなって思ったんだ。





「・・・・食うけど。この間も俺の刺身をちゃっかり盗み食いしてたし、好きなのかもな」




わ、やっぱり食べるんだ。




「じゃあ今から・・・・」




ーーーって、私。



もうお風呂にも入っちゃったあとだっけ。



すっぴんでこんな超リラックスな部屋着なんかで届けに行くのも、些か抵抗がある。





「あの、はしたなくて申し訳ないんですけど、ベランダ越しから渡してもいいですか?」




「別にいいけど」





私は部屋に戻り急いで冷蔵庫からお刺身を出すと、それを手提げ袋に入れた。





「お待たせしましたっ」




「ん。一応危ないから俺がそっちに手を伸ばすから渡して」




「・・・・ありがとうございます」





口調がぶっきら棒だったりして冷たく感じるときもあるけれど、森さんの言うようにやっぱり穂高さんは優しい人だと思う。





「あのでも、顔は覗かせないでくださいね」



「はいはい」




気だるそうな返事のあと、壁の横側からすっと腕が伸びてきた。






ーーー・・・・大きな手だなぁ





希和よりも少し大きく、ごつごつしている手。



薄い壁1枚の向こうにいる穂高さんは、やっぱり男の人なんだって、改めて意識せずにはいられなかった。



その手に触れないように、袋をそっと提げた。





「は?なんだよこれ?」

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