第77話

久しぶりに会う恋人に見せる顔が、すっぴんは嫌だなって。



そう思ってメイクしたままでいたけれど、電話を終えて早々にシャワーを浴びた。





こんな風に急に会えなくなることは、今までだって何度もあったし。



そもそも希和と付き合うことになった時に、最初に言われれてもいたことだから納得もしている。





だけどそれでも。




「今日だけは絶対に会いたかったのにな」






希和に会いたかった。





希和の顔を見て、希和に触れて、



寂しかったよって伝えたかった。




たったその一言を吐き出すだけで、まだまだこの先も頑張れるような気がしたのに。





























「なんか酒くせーな」



「えっ、飲んでるのわかります?」



「わかる。ビールだろ」



「・・・・正確です」





そっか。



食べ物だけじゃなく、飲み物までもが何を飲んでいるのか筒抜けなのか。



壁越しの穂高さんには。






「つーか皆原さん、今日声変じゃない?」



「あ・・・・、ちょっと風邪気味で」



「は?じゃあベランダになんて出てないで部屋で大人しく寝てたほうが良いんじゃねぇの?」



「・・・・そうなんですけど」




別に穂高さんがいることを期待してベランダに出たわけじゃない。



だけど今は1人でいるより、今夜はもう少しここでこうして誰かと話していたい気分だった。



たとえ声だけでもと。




なんだか今は、すごく、人恋しかった。






「あの、ノラちゃんは今何してるんですか?」



「・・・・寝てるよ、ぐっすり。ホント猫って基本は寝てばっかだよな」



「寝る子だから、ネコですからね」



「それってマジな由来なの?」



「・・・・さあ?」



「知らねぇのかよ」





部屋に戻らず会話を続ける私に、穂高さんが何かを察したような空気が壁を越えてこちらに届いた。



それ以上何も言わずに普通に返してくれたことが嬉しかった。



穂高さんと何でもないことをこうして話していると、なんだかすごく心が落ち着いた。






「あ!そうだ!」

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