第72話

"高校生の時からずっと "



"とても美しい人でした"



" よほど深く愛していたんでしょうけど "










「ーーー・・・」





それほど長く外気に触れていたわけじゃないのに、芯からぐっと冷えていく感じがした。



それでももう少しだけ此処に留まりたくて、胸もとでぎゅっと両手を結んだ。






・・・・やっぱり"忘れる"って、そんな簡単なことじゃないのかな。





もう5年。



だけどまだたった5年、とも言えるのか。






想いが深ければ深い分だけ、それを埋めることは難しくて。




ーーーもしかしたら埋めようという気すら、本人にはないのかもしれない。








いい加減忘れて欲しい。




もう新しい恋をして幸せになって欲しい。






その願いは届くことなく、永遠に平行線を辿るしかないのかな。








"人間は忘却の生き物"だと聞いたことがある。





哀しみや苦しみを忘れなければ、生きてはいけないと。





だけどもしも、愛し続けるその想いだけで、今も十分に幸せだとしたら?




本人がそれで満たされているのなら・・・・






もしかしたら、無理に忘れる必要もないのかもしれない。








それでも忘れて欲しいと願うのは、




ただのエゴイストでしかないの・・・・?




















突然キーンと耳鳴りがして、閉じていた瞳をはっと開けた。





・・・・そうだ。



さっきも私、貧血を起こしたんだっけ。




これで風邪なんか引いたら、いい歳して自己管理もできないなんてと落ち込みそうだ。




一度隣に視線を向けたあと。



まだ少し耳鳴りの続く耳を抑えながら、私は部屋へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る