第70話

「・・・・私、なんでこんな話をしてるんでしたっけ。ああ、チキン味を買ってこいって先生の電話からでしたよね」



森さんは照れ隠しなのか、眼鏡のブリッジをきゅっと上げた。




「まぁそんなわけなので、今は女性にだらしない先生ですけど、きちんとお付き合いした相手にはたぶん案外誠実な人だと思うんですよ」



「・・・・?」



「皆原さんが相手なら、先生も変われるのかもしれません」



「えっ」




私が相手って。



え、なんでそんな話の流れに・・・・。





「最近の先生、表情が少し違うんですよね。やけに楽しそうというか。皆原さんとよくお話しされてるからじゃないんですか?」



「そんなことは、」



「この頃は体だけの関係の女性を連れ込んでもいないようですし」



「そうなんですか?」




・・・・そういえば、最初の頃に聞いただけで、女性のあの声は聞こえてはこないっけ。



もちろん声の小さな女性が相手ならわからないけれど。




「先生普段はボロボロな顔と格好で酷いですけど、ちゃんとすれば実はけっこう整ってるんですよ。ホント勿体無いくらいに」




・・・・ボロボロって、どんな感じなんだ。


浮浪者的な?





「先生もいつまでも引き摺ってないで、いい加減踏み出すべきなんですよ」




・・・・・・・・え?





「もうあれから何年も経ってるっていうのに、一途を通り越して本当にバカですよ」




何年もって。




「やさしく包み込んでくれそうな雰囲気の皆原さんが相手なら、先生の心ももしかしたらって思ったんです。私の願望込みですけど」




私が、どうこうという話はとりあえず置いておいて。




気になったのはーーー






「穂高さん、



誰か忘れられない人がいるんですか?」

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