第68話

優しさ?



一体どういう意味なんだろう・・・・?





「私、恥ずかしい話なんですけど。実は多額の借金があるんです」



「借金、ですか?え・・・・森さんが?」




またも外見からのイメージで申し訳ないけど、すごく堅実そうだし、借金なんて言葉でさえも無縁に見える森さんが?



それに借金って、そう簡単に背負うものでもないような気がするけど。しかも多額って・・・・。




いや、でも待って。




一概に借金と言っても、大学へ通う為の奨学金の返済ってこともあるし。


それか、森さん自身が作ったものではなく、ワケありで両親から背負わされたものとか?





けれどそうではなく。



またしてもその原因というのが、森さんという女性のイメージを見事に覆すものだった。




「私、以前は今の編集社とは職種も違う会社で働いていたんです。そこで、上司から嫌がらせを受けていたんです」



「嫌がらせ・・・・」



「尋常ではない量の仕事を押し付けられり言葉での暴力だったりと、陰湿な虐めです。その上司が抱える日々のストレスを、地味でおとなしそうに見えた私にすべてぶつけていたんです」



「そんな、酷い」



「そこそこの大手企業で給料も良く、親の手前簡単に辞めるわけにもいかず耐えるしかなかった。そんな時、日頃から良くしてくれていた女性の先輩が気晴らしにホストクラブに行こうと誘ってきたんです」




「ほっ、」




驚きのあまり思わず大きな声が出てしまい、慌ててボリュームを落とした。




「・・・・ホストクラブですか?」





借金って、まさか。




「いつもはブスだの役立たずだの言われていた私が、そこでは真逆の言葉でもてはやされたんです。どちらも同じ男性だというのにこの違いは何だろうって。もちろんわかってはいたんですよ、それが彼らの仕事なのだと」




私は行ったことがないし、お金を払ってまでそういう言葉を貰って嬉しいものなのか正直よくわからない。



だけどその時の森さんは、それほどまでに心が傷つけられていたのだろう。




「それでもその時間だけは優越感を得られた。気付けば借金をして通い詰めるほど、嵌ってしまっていたんです」

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