第65話

「いえ、あの・・・・」



「・・・・・?」



「実はちょっと、視線を感じた気がして」



「視線、ですか?」





このことを誰かに話すのは初めてだった。




「はい。気のせいかもしれないんですけど、誰かに見られていたような」



「それって今日だけですか?」



「・・・・いえ、少し前からです。毎日ではないんですけど」



「いつもマンションの前で?」



「いえ、会社を出たときや休日の外出先でも時々。マンションの前で感じることが多いんですけど。でも本当に気のせいかもしれなくて」





実際に誰か、怪しい人物を目撃したわけじゃない。



仕事が手一杯である希和と、幼い寧々のいるカエちゃん。そんな近しい人に話して無闇に心配かけるわけにもいかなかった。



だけどこうも何度も同じように視線を感じ、1人で抱え込むにはさすがに少し重たくなってきていた。



だから今こうして森さんに話すことができて、ただ聞いて貰えるだけで、少し心が楽になっていくのを感じた。




「でもそれだけ何度も視線を感じるのなら、たぶん気のせいではないですよね。それってストーカーじゃないですか?」



「ええっ、ストーカー?!」



「つけられているのなら、そうでしょう」



「・・・・でも、視線だけで特に何かされたわけじゃないし、ストーカーなんて」




ポストに何か入っていたりとか、何か接触があったわけじゃなくて。



ただときどき視線を感じるだけ。



そういった行為だけでもストーカーと呼べるのかもしれないけれど、確証がない上に、言葉にされるとやっぱり大袈裟なような気もしてしまう。




「今はただ見ているだけかもしれませんが、これから何か起こす気でいるかもしれないんですよ?その可能性のほうが大きいんじゃないですか?」



「そんな・・・・何かって」




一体、何を?




「その人物に心当たりはないんですか?」



「ないですよっ」



「まったく?」



「まったくです!」

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