第64話

「えっ、や、ちょっ皆原さん?!」




森さんの慌てふためく声を聞きながら、




「大丈夫ですか?!」




私はひゅるひゅるとその場にしゃがみ込んだ。




「・・・・大丈夫、です。すみません、ちょっと驚きすぎて、しまって・・・・」





吃驚したのと、なんだ森さんだったのかという安心感が重なり、身体中の力が一気に抜けてしまった。




森さんも同じようにしゃがむと、俯いた私の顔を覗き込んだ。




「でも顔が真っ青ですよ!本当に大丈夫なんですか?」



「あ・・・・ちょっと軽く、貧血っぽくて・・・・」



「やだ、嘘」




心臓はばくばくして、頭はなんだかくらくらする。手足は血の気が引いたように、冷たく感覚がない。





「こんな驚かせるつもりはなかったのに、ごめんなさい・・・・!」



「違うんです、森さんのせいじゃないんです。ちょうど気を張っていたから・・・・すみません少し休めばすぐに治りますから」




ここはマンションの出入り口ど真ん中。



森さんは私の肩を抱くと、エントランス内の隅にある小さなベンチへ私を移動させてくれた。そして自分も私の隣に腰を下ろした。



それからほんの数分で、予想通り動悸と頭のくらくらは治ってきた。






「あの、だいぶ落ち着きました。ごめんなさい森さん。迷惑かけてしまって・・・・お仕事中でしたよね?」




森さんはただ普通に声をかけただけなのに、私が変に驚いて貧血まで起こしてしまったがために、要らぬ迷惑と心配をかけてしまった。




「いいえ、仕事のほうは終わりましたから。今日はこれで、先生のとこが終われば直帰で大丈夫だったので、気になさらないで下さい」




「・・・・そうですか」




「それより。何かあったんですか?」




「え?」




「皆原さんの様子がおかしく見えたから、それでさっき声をかけたんです。どうかされたんですか?」

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