第62話
「・・・え?
フラワーショップ?」
「ああ。フラワーショップと言っても普通の花屋じゃなくて、カフェを併設してそこで時々ドライフラワーの教室を開いたりする店を作りたいらしいんだ」
希和がノートパソコンにカチャカチャと何かを打ち込みながら、さらりと答えた。
「この間偶然会った時も不動産屋を巡っていたところだったらしいんだが、なかなか思うような場所も見つからなかったらしくて。それで立地とか家賃交渉とか、最初の段階からすべて俺に任せたいと頼まれたんだ」
希和は通常の会計士としての仕事だけでなく、新店舗の立ち上げから携わるコンサルティングの仕事を請負うことも度々あった。
だからアサミさんから頼まれたという今回の話も、べつに珍しいことではない。
・・・・だけど。
「アサミは友達とはいえ女性だし、完全なクライアントとは少し違うから。一応史にも話しておいたほうが良いと思って」
アサミさんとあったあの日から2週間後。
平日の夜、久しぶりに希和が私の部屋を訪れた時のことだった。
一緒にいる時でも仕事の電話がかかってくることはよくあることだから、希和も今では私にあまり気を使うことなく私の前でも電話に出たりしていた。
けれどその日は珍しく、一瞬だけ出るのに躊躇したのだ。
その後はすぐにいつも通り普通に私の前で話し始め、そこで電話の相手がこの間会ったアサミさんであることと、そしてそのアサミさんからの電話がこれが初めてではないことを知った。
話し終えた希和は私に、アサミさんが希和のクライアントになったことを教えてくれた。
こうして正直に話してくれるということは、何もやましいことはない証拠なんだろうし、そこを私も疑ったりなんてしていない。
そもそも希和は浮気をするような人ではないことくらい、ちゃんとわかってる。
大企業ではなく個人の、それも一から会社を作る手助けをするのが好きだと話していた希和だから。
いつも以上に熱を入れて取り組んでいるように見えるのはきっとそのせいで。
相手がアサミさんだからじゃない。
電話を終えたあと、その件でどこかにメールを打ち始めた希和の横顔を見つめながら、
「・・・・そっか。話してくれてありがと」
私はそう言って、笑った。
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