第61話
「穂高さんって料理するんですね、意外にも」
穂高さんの言葉には敢えて触れることなく、さらりと話題を変えた。
「買い物とか森さんが行ってるから、てっきり料理も森さんが全部作ってるのかと思ってました」
「あー料理ね、森ちゃんに何度か作ってもらったこともあるけど、すっげぇ下手なんだよね」
「えっ、そうなんですか?」
「だから料理だけは頼んでない。自分で作ったほうが美味いし」
そうなんだ。
森さんって、料理だって普通に問題なく熟せそうな感じがしたのに。
「炒飯とかべちゃべちゃで、リゾットか?ってくらいひでぇんだよ」
炒飯がリゾット・・・。
それはすごい。すごいけども。
「森さんはべつにハウスキーパーではなく、ただの担当編集者さんなんですよね?作ってもらっておいて、そんな偉そうに文句を言える立場なんですか?穂高さんって」
「けっこうハッキリ言うねぇ、皆原さんも」
穂高さんが苦笑しながら答えた。
「けど森ちゃん、掃除は旨いんだよ。整理整頓が得意らしい」
「そういう問題じゃありませんよ」
「・・・そろそろ食い終わったし、仕事でもすっかな」
年上であろう穂高さんの拗ねたような言い方がちょっと可愛くて、思わずくすっと笑ってしまった。
最近、心が少し疲れていたせいもあると思う。
穂高さんの低い声と、ノラちゃんの独特な鳴き声を聞くだけでほっと出来た。
朝から気分が少し浮上する気がした。
だからと言ってもちろん、穂高さんになにか特別な感情を抱いているわけじゃなかった。
なかったーーーのに。
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