第59話

「すごく綺麗な人だったね、・・・・アサミさん。同級生だったんだ?」




希和はまったくの無表情で、何を考えているのかわからなくて。



私の作り笑顔は、なんだか空回りしてるみたいだ。





「あぁ」




真っ直ぐに前を見据えたまま、希和は答えた。





「史も梶のことは知ってるよな?」



「あ、うん。希和が前に一度、その梶さんって人がやってるbarに連れていってくれたことがあったよね?」




こじんまりとした小さなbarだったけど、とても居心地が良く、固定客がいっぱいいそうなお店だった。



それは梶さんが明るく、面倒見の良さそうな人だったからだと思う。


希和もかなり心を許しているようだった。




「そう。大学のゼミでその梶とかアサミとか、何人か男女のグループで親しかったんだ。卒業後も相変わらず会ったりしてる奴らもいるらしいけど、俺は忙しくてみんなに全然会えてないけどな。


アサミが言ったように、4年前の梶の結婚式で集まったときが最後だな」



「・・・・そうなんだね」




アサミさんのことを聞いたつもりが、なぜか"みんな"のことに変わっていた。



いちいち気にする必要もないのかもしれないけれど、懲りない私はそれでもと続けた。




「アサミさんってあんな綺麗なら、きっと仲間うちからもすごくモテたんだろうね?」



「・・・・どうだろうな」





グループで親しかったというなら、当然それくらいのことは知っていそうなものなのに。



希和の答えは何故かとても曖昧なものだった。





"もしかして、希和もそのうちの1人だったりして"





そう揶揄うように続けるつもりが、



・・・・できなかった。




顔色ひとつ変えない希和が、なんだか急に知らない人に見えたから。








「・・・希和」



「ん?」





私は歩きながら、希和の腕を軽く掴んだ。



服越しに感じられた熱に少し安堵しながら、






「お茶碗探しの旅、頑張ろうね?」





そう言って精一杯の笑みを希和に向けた。




希和は一瞬目を見開いたあと、「そうだな」といつもの優しい笑みで返してくれた。



それを見て、ちょっと泣きそうになった。

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