第58話
"アサミさん"は私にも優しく微笑むと、
「・・・・初めまして。木嶋くんの同級生のアサミと申します」
細く綺麗な声で、そう自己紹介した。
こんなにも完璧な美人なのに、気取った雰囲気はまるで感じない。
「知らなかったな。木嶋くんにこんな可愛い彼女がいたなんて」
可愛いって・・・・。
挨拶のようなものだとわかっているけれど、それでもこんな美女からそう言われるのはすごく恥ずかしくて、ちょっと惨めだ。
私はふるふると首を振った。
「梶くんからは仕事のことだけで、木嶋くんの女性関係のことは何も聞いてなかったから少し驚いちゃった。・・・・けど結婚してたって不思議じゃない年齢なんだし、彼女くらいいて当然よね」
アサミさんはくすくすと笑った。
その口もとに添えられた白く美しい左手には、とくに指輪は見当たらなかった。
咄嗟にそんな部分をチェックしてしまう自分が嫌になる。
「今度会ったら木嶋くんの幸せそうな場面に遭遇しちゃったって逆に梶くんに教えてあげなくちゃね」
「・・・アサミこそ、」
「え?」
希和が何か口にしようとしたその時だった。
「あ・・・・」
アサミさんが手に握っていたスマホが、軽快に鳴り響いた。
「わっ、ごめんね」
アサミさんは相手を確認する為にか、一度ディスプレイに視線を落としたあと、
「私、もう行かなくちゃ。突然声かけたりしてごめんね」
「いや」
「ーーーまたね、木嶋くん」
アサミさんはそう言って私にも軽く会釈をし、スマホを耳に当てながら足早に去っていった。
私も希和も、少しの間その後ろ姿を見つめていた。
「俺たちも行こうか」
そう言って先に踵を返したのは希和だった。
「・・・・うん」
私も再び希和と並んで歩きながら、希和の表情を横目でそっと伺った。
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