第56話

「けど2軒目に入った店で見たのは、けっこう良かったけどな」




カフェを出てまた2人並んでぶらぶらと歩きだすと、希和が思い出したようにそう言った。





「史も暫く見入ってただろ?」



「え・・・・あぁ、うん、すごく素敵だったね」





うっとり眺めてしまうほど素敵だったものも確かにあったにはあった、けど。





「さすがにあれは高すぎだよ」




見るからに高そうだなぁとは思ったけれど、まさかのゼロが1個違うほどだった。



ジュエリーとかならまだしも、茶碗にあそ金額は出せない。




「本当に気に入ったんなら、あれにしようか?普段まったく贅沢してないし、あのくらいなら余裕で買ってあげられるんだけどな」




希和は口角を上げて、にやりと笑った。



詳しい金額はもちろん知らないけれど、希和は仕事も出来るしあの人気っぷりだ。それなりに高額なお給料を貰っているんだと思う。



けれど住んでいるマンションは、私の住んでいるマンションより少し毛が生えた程度のランクの所だし。



車だって国産で、それほど高価なものには乗ってはいない。



希和の勤める事務所の社長さんからの助言もあり、大企業の社長と接することも多い為に、スーツや時計などはそれなりに良いものを身につけてはいる。



だけどそれだってそんなに買い替えたり、買い足すこともないし。




希和の言う通り、普段は贅沢もせず堅実な生活を送っているのだと思う。





「もし史が気になるんだったら、あとでもう一度あの店に戻ろうか?」



「いいいい、あんな高価なお茶碗にご飯なんて気軽によそえないよ。食べた気もしないだろうし」



「使ってればそのうち慣れるんじゃない?」



「あれこそ金額を考えるとまた欠けたときに泣きそうだよ。それに、京都で買ったあれほどはときめかなかったし」



「そっか」



「うん。希和が言ってくれたみたいにもう少しゆっくり探したいな」



「ん、わかった。そうしようか」




こうしてのんびりと散歩みたいにふらふらと探し歩くが、当分の楽しみになりそうだ。




幸せだなって、




「じゃ、とりあえず今日はもう少し向こうまで歩いてみてそれからーーーー」




そう実感した矢先だった。









「木嶋くん・・・・?」

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