第55話

「付き合った長さとか条件とか。そんなこと結局は結婚の決め手には関係ないのよね。最終的に頭ではなく心が、"この人だ"って動くかどうかだった」




コンビニから会社まで、歩いてたった5分。



けっきょく私は千家さんから話を聞くだけ聞いて、気の利いたことを何ひとつ返せないまま別れることになった。








「もしも"結婚"という形さえお互いに求めなければ、私たちはずっと一緒にいられたのかな」








別れる間際、千家さんが放った台詞がなぜだか暫く頭から離れなかった。





























「心が動くものに出会うって、やっぱり簡単なことじゃないんだな」





新しい茶碗を買いに行く約束をしたあの日。



けっきょく希和が急遽仕事になってしまい、その翌週である今日に変更となった。




5軒ほど回ったところで私も希和もぐったりと疲れ、カフェで休憩することにした。





「ごめんね希和。そんな拘らなければすぐに買えるものなのに」



「あの欠けた茶碗と比べてしまうと、なかなか難しいよな。相当気に入ってたものだし」



「うん・・・・」



「史がまたこれだって思うものに出会うまで、今日だけじゃなくていいからじっくり探していこうよ。で、疲れたらこうして休んだりしてさ。たまたま目の前にあったから入っただけだけど、ここのケーキ美味いな」




そう言って希和はまたミルフィーユをひとくち口に入れた。



それは慰めの為だけの言葉ではないと証明できるほど、初めて入ったこのお店のケーキは驚くほど美味しかった。



私が頼んだのは、今が旬だというクランベリーのタルトだ。




「また絶対来たいって思うくらい美味しいね」



「茶碗が欠けなければ、この店とはきっと出会えなかったよな」




確かにそこまで惹かれる外観でもないから、疲れてたまたま目の前になければ入らなかったお店だろうけど。





「・・・・だけどそれは、複雑」




それでもあの夫婦茶碗が割れたほうがショックだ。



私が顔を顰めると、希和がふはっと笑った。

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