第53話

事務所内にすでに人はまばらだ。



けれどそんな中ひたすらフォトショップと睨めっこを続ける三上さんの姿があった。





「デザインはオッケーだったんだけど、やっぱ制作費がギリギリで通らなかったんだよね。一から練り直し」




いつの間にか横に並んでいた部長が、私と同じように三上さんに視線を送りながらはぁっと息を吐いた。




「向こうの担当者たちは気に入ってくれてたけど、上が駄目っつーんだから仕方ないよね。僕も好きだったんだけどなぁ、あのデザイン」





来年は50歳になる部長が、可愛らしく口を尖らせた。



三上さんが今回もまた身を削るように、朝早くから深夜まで会社に居座っていたことも周囲は知っているから。



渾身の出来だと満足気に笑っていた三上さんをを思い出すと、仕方のないことだとはいえ私もすごく悔しかった。





「まぁまた彼女ならあれ以上に良いもん作り出すさ。こっちも頑張ってサポートする為にも、皆原さんもさっさとご飯行っておいで」



「・・・・はい。三上さんの分も何か買ってきますね」




「おーよろしく」と笑って片手を軽くあげた部長を見て、本当に良い会社に転職できたなと改めて思った。










1階にあるパン屋さんで三上さんの分も買ったあと、そのままコンビニへと向かった。



今日も確実に日をまたぐまで会社に残るであろう三上さんに、栄養ドリンクを買う為だ。





数本まとめてカゴに入れていると、





「すごい数ね」




背後からくすくすと笑う声が聞こえた。




「千家さん!」



「それって三上のでしょ。三上、その種類のしか飲まないって言ってたし。また事務所に缶詰め?」



「そうなんです。やり直しになってしまったデザインがあって・・・・千家さんはお昼ご飯を買いに?」



「うん、まあね」



サラダをひとつだけ手にしていた千家さんが曖昧に笑った。








「・・・・何か、あったんですか?」



「え?」



「今日の千家さん、なんとなく元気がない気がしたので」




コンビニを2人一緒に出たあと、隣に歩く千家さんにそう尋ねた。

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