第51話
「え・・・・」
「見たいんなら見にくればいいだろ。皆原さんならいつ来てもかまわないけど?」
「いえ、それはちょっと、さすがに」
「ノラに会いたいんじゃねーの?」
「会いたいですけど・・・でも、遠慮しておきます」
こうしてベランダで会話するようになったとはいえ、それでもほぼ見ず知らずの相手。
そんな一人暮らしの男性の部屋にほいほい上がりこむほど、私はそこまで軽い女ではないつもりだ、一応。
「無理矢理は好きじゃないから、どんなに欲情しても同意がなきゃ食べないよ俺。まぁ本気で食いたきゃ、全力で同意を得るようにはするけど」
「・・・・・・・」
それって、無理矢理とあんまり変わらないような気もするけど・・・・。
「堅いよね、皆原さんって。今だってほぼ同じ部屋にいるようなもんなのに」
「はい?」
「ここ。隔て板が1枚あるだけで繋がってんだろ?」
・・・・何言ってるんだ、この人は。
「それはだってベランダだから当然ですよ。部屋じゃなくて外ですし。それに、この壁があることがかなり重要だと思いますけど?」
「こんな壁、簡単に突き破れるだろ」
「・・・・・・!」
嘘。
こわっ!
「いや、破らないけどね?」
そう言いながら、穂高さんはケタケタ笑った。
最初の舌打ちが信じられないほど、穂高さんってけっこうよく笑う人なんだなぁ。
・・・・悪い人ではないのは、もうわかってる。
"穂高"という名前と、煙草の匂い。
それから色気の混じった低い声。
ーーー私が知っている彼は、ただそれだけ。
「だいたいなんの仕事をしているのかさえ教えてくれない人の部屋になんか、上がれるわけないですよ」
「あれ?昨日言わなかったっけ?」
「聞いてないです!」
「漫画家」
「へ?」
「だから職業。漫画家だよ」
てっきり秘密にしているのかと思いきや、穂高さんはあっさりと口にした。
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