第50話

穂高さんに言われたように、何か聞いて欲しいことがあったわけじゃない。




だけど気づけばその翌朝も、私の足はなぜかベランダへと向いていた。












「野良ちゃんって名前、あるんですか?」




「は?名前?こいつの?」




"んなぁー"




「もし付けてないのなら、いつもなんて呼んでるのかなって思って」




一時的な保護といえど、名前がないのは可哀想な気もした。




「なんてって普通に。おい、とか、おまえ、とか?」



"なぁー"




「何ですかそれ。長年連れ添った女房ですか」



「ははっ、女房か。こいつメスだしね。けど女房にしちゃ何もしてくれねーけどな」





相変わらずの名コンビっぷりに、一時的なんて言わずに、やっぱりこのまま穂高さんが飼えばいいのにって思ってしまうのは無責任すぎるだろうか。





「そうだ。名前決めたよ」



「え?」




決めたって、今?




「何ですか?」



「ノラ」



「は?もしかして野良猫だからそのまま"ノラ"ですか?」



「そ」



「・・・・テキトーすぎません?」





絶対なんにも考えずに決めたよね、このヒト。




「皆原さんが呼ぶ"ノラちゃん"って響きがなんかいいなって思ってたし」



「えっ、私のせい?!」



「可愛いだろ。いいよな、ノラ?」




"なぁー"




ノラちゃんも気に入ったのかそれとも呼び名なんてどうでもいいのか、とりあえず同意はしたようだ。




・・・・ノラちゃん、か。




なんだか私が名付け親みたいで、ムズムズした気持ちになる。




「ノラちゃんって毛は何色なんですか?何歳くらいなんですか?」



「白黒。白がメインで所々黒のブチがある。足は黒い靴下履いてるみたいだな。年齢は病院の先生が言うには2、3歳だろうって」



「まだ若いんですね。靴下模様かぁ。見てみたいな」



絶対に可愛いだろうな。




「なら見にくれば?」

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