第45話

「誰がどう見たってその言葉とこの状況、誘惑されてるのは俺のほうだと思うんだけど?」




希和は目尻を下げて苦笑した。





「嘘だ、私にそんな色気なんてない」



「あるから・・・・こうなってるんですけど」




生々しい言葉とそれを証明するものを直に肌に感じ、身体の熱が顔全体にまで伝染した。





「史、顔真っ赤」



「だって希和がっ」





変なこと言うから、と語尾を小さくして訴えると、希和は声に出して笑った。




「こういうの"ギャップ萌え"って言うのかな?初めて会ったときの史を思い返せば、かなり印象が違うよね」



「・・・・初めて会ったときって」



「社長室にお茶を持って来てくれたとき。湯呑みを持つ手がカタカタ震えてて、今にも溢しそうだった」



「そう、だったかな」




その時のことは、よく覚えているようで覚えていないから。




「初々しくて可愛かったな。そんな史が今じゃ『希和も脱いで』なんて言って、俺の上で腰を振ってるんだ。興奮しないわけないだろう?」




「腰なんて振ってませんっ、・・・まだ」




「まだって」






再び希和が声を上げて笑う。



今この状況は、お互いに色気は皆無だ。





「でもそれって、今の私じゃがっかりしてるってこと?」




もう希和が初々しく感じたあの頃の私はいないから。




「言ったろ、"ギャップ萌え"だって。今だってしおらしい所もあれば、急に大胆になる所もある。史は一緒にいて飽きないよ」




「・・・・希和」




いつの間にか少し濡れていた目尻に、希和の唇が触れた。





「で?脱がしてくれるの?」

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