第39話
「ホントだ・・・」
それは希和と初めての旅行で、京都へ行ったときに買ったものだった。
嵯峨野でたまたま通りがかった時に見つけた陶器のギャラリー。
そこで薄紅色と木蘭色のそれぞれグラデーションに染められた夫婦茶碗に、私が一目惚れしたのだ。
それまであまり物欲を見せたことのない私が食い入るように見つめていたからか、希和はスマートにそれをレジへと運んだ。
茶碗にしては決して安くはないものだし、夫婦茶碗に惹かれてしまった自分が恥ずかしかったこともあって恐縮していると、
「史がうちに来たとき用のにしようよ」
そう希和はやさしく笑った。
すごく嬉しくて、すごく思い入れの強いものだった。
・・・それなのに。
薄紅色のーーー私のほうの茶碗だけが欠けてしまった。
「どうして・・・・」
その部分に手を伸ばそうとすると、
「危ないから下手に触らないほうがいい」
そう言って私のその手を掴んだ。
「・・・すごくショックだよ」
「史のお気に入りだったからな」
唇を噛み締め、こくんと頷いた。
「だけどこれくらいなら、まだ使えるよね。まだ使いたい」
「でも危ないだろ」
「大丈夫だよ。ここに口をつけなければ」
「何かの拍子にってこともあるかもしれないからやめた方がいい」
「ないよ。私はそんな子供じゃないし」
「欠けたものを使ってると運気が下がるとか縁起が悪いとか言わない?」
「・・・・・・・・・」
そんな応酬に先に根を上げたのは私で。
希和がキッチンの上に茶碗を置くと、その空いた手で私の頭をぽんぽんと撫でた。
「また買いに行けばいいよ。また京都に旅行に行きがてら、ね?」
希和のやさしい手に、私はもう頷くしかなかった。
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