第38話

「え、ちょっ・・・!」



「先生、買ってきましたよー」





ドア越しに森さんが声を上げる。




「や、あのっ、私、これで失礼しますっ」




慌ててそう言い残すと、急いで自分の部屋へと逃げ込んだ。



森さんのくすくすと笑う声が背後で聞こえた。




森さんってあんな冗談を言ったり、悪戯っ子みたいに笑うんだ・・・・。





ーーー地味で真面目なOLさん




そんな第一印象は、見事に裏切られた。
























「あ、やった。カレイの煮付け」




「もう少しでできるよ」





シャワーを浴びたばかりの希和が、キッチンに立つ私の隣に並んだ。



タオルを首にかけ、まだ濡れたままの髪がすごく色っぽい。





「小松菜の胡麻和えもあるんだ」



「久しぶりだし、希和の好きなものばかりにしてみました」



「ん、旨い。味付けもばっちりだよ」



「あ!つまみ食いしてるっ」



「ごめん、我慢できなかった」




そう言いながら親指と人差し指をぺろりと舐めた。



「もう」と言いながらも、仕事中には絶対に見せないであろう子供っぽい希和に、私の頬も自然と緩む。





「何か手伝う?」



「もうできるけど・・・じゃあお茶碗とお椀出してくれる?」



「わかった。ついでによそうよ」



「ありがと」





希和は嬉しそうに笑った。



リビングで待っていてくれても良いのだけど、希和は一緒に作業するのが好きだと言っていたから、こうしてお願いをしたほうが喜ぶ。





「あれ?ここ、ちょっと欠けてない?」



「え?」



「ほらここ」




希和が手にしたお茶碗のふちが、少しだけ欠けていた。

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